THE インタビュー

第一回 「これからの組織作りと人材育成」

 か

記念すべき第一回目は、広島市安佐北区の

(医)恵正会の事務長、松島雅也氏です。

 同氏は、高校野球にて甲子園に出場。社会人野球を経て、教鞭を振るった後、恵正会へ入職。

その後10年間の間に2つの診療所、3つの通所事業所、特養(グループ内施設)、

関連企業の有料老人ホームやNPO法人など多数事業の立ち上げに手腕を発揮。

執筆や講師依頼なども多数あり、外部活動にも精力的に参加。

今や300名を数える組織の船頭である同氏の、その組織運営に対する想いに迫ります。


◎ 超高齢社会を迎え、介護職員のマンパワー不足が問題視されています


 確かにマンパワーの不足は切実な問題です。施設があって入居者もいるけど、サービスを提供する職員がいない。

こんな笑うに笑えない現象が各地、特に都市部で表面化しています。介護施設の現場からは、募集を出しても

なかなか人が集まらない、せっかく採用した人材も短期間で職場を離れてしまうという残念な状況が報告されて

います。また、介護職の予備軍となる介護福祉士の専門養成学校も学生を集められず、定員割れの学校が

続出しているのが現状でしょう。

 今後10年間に約40~60万人の介護職の確保が必要と見込まれるなか、地域の介護体制はますます深刻な

事態に直面しています。しかし、これは介護職に限ったことではありません。医師、看護職員をはじめとする

医療職においても同様です。

     ↑ 恵正会のグループ理念(HPより)

  

◎人材の安定確保に向けた取り組みについては?


 資格を取得しても介護現場で働いていない潜在介護福祉士は約20万人にものぼっており、

人材の安定確保にはほど遠いと見られています。雇用環境は日に日に厳しさを増しています。

介護業界は、その解決策のフィールドとして脚光を浴びていますが、

 介護現場の人材難が解消に向かっているという実感は全くありません。雇用不安を抱えながらも多くの人は

職種を選んでいるのが現状で、特に都市部の人材不足は深刻です。もちろん、国を挙げて取り組むべき問題

ですが、我々事業者も手をこまねいていてはいけません。この危機的状況を改善するには、

事業者自らが積極的に独自のスタンスを示し、強くアピールしていく姿勢が大切です。

例えば、これまであまり介護に関心がなかった人たちに対し、

いかに「介護業界っておもしろい」

「介護の仕事ってやりがいがある」と思わせることができるか。

就職難民から人材確保を成功させるカギはそこにあります。

「やりがいはありそうだけど、何か特別なテクニックが必要になるのか」

「資格がないから私にはできないだろう」

そうした人たちには、一本筋の通った「経営理念」を訴えかけていくことが必要です。もちろん、その経営理念が

現場に浸透していることが条件となります。結局は、最初の期待と現実のギャップに失望して、離職されてしまっては

意味がないからです。また、業務をできるだけ標準化していくことも業界における大きなテーマです。

人を相手にする仕事だけに、標準化することによる弊害も危惧されますが、そんなことを言っている場合では

ありません。標準化=形だけのマニュアルと勘違いされているようですが、何もファーストフードの接客を

イメージしているわけではありません。マンパワー不足の介護業界で未経験のスタッフにも質の高い介護を

望むのであれば、誰がやっても一定レベルの介護が可能となる方法を考えなければならない。

もうこれは避けて通れないし、一日でも早く取り組むべき課題です。

そんな気がしてなりません。


 

◎需要は右肩上がりです。経営の観点から見た人材育成は?


 介護業界は、全国規模で事業を展開する法人から、職員わずか10名足らずの小規模な法人まで様々です。

これらが同じ土俵で凌ぎを削っているわけではありません。しかしながら、安定したサービスを提供していくには、

ある程度の規模があるほうが有利に働くのは事実でしょう。

 病院をイメージしていただくとよくわかると思いますが、医師や看護師など現場で働く人間だけで医療を成立させる

ことは不可能です。受付やレセプトなどに従事する事務職員、退院後のフォローや地域の介護施設等との連携を図る

ソーシャルワーカー、医療材料の調達や施設管理を行う職員など、様々な職種の人たちの力が結集して病院は

成り立っているのです。

 国が推し進めようとしている「地域包括ケアシステム」を実践するためには、各々が自部門の方針だけで動く、

いわゆるセクショナリズムに捉われた縦割りの関係ではなく、幅広い視野で総合的に経営管理を行うことのできる

人材、とりわけミドルマネージャークラスの育成が不可欠です。では、どうやって育成していけばいいのか。

誤解を恐れずに言うならば、医療も介護もこれまでは「経営」を考えなくてもある程度はやっていけました。

しかし、放漫経営による倒産、あるいは過剰投資が原因で経営が悪化している法人が相次ぐ現状を考えると、

このまま放置していては何も解決しません。人材の育成は一朝一夕にはいきません。

 現場の人たちには、「経営」という言葉が「お金の勘定」とイコールで結びつく傾向があるようですが、

経営理念を達成遂行していくには、健全経営が絶対条件だということを学ぶことから始めなければならないでしょう。

「経営管理をやれ」と、精神論を前面に出すだけではミドルマネージャーの育成は不可能です。地域に貢献する

法人でありたいのであれば、まずは経営トップが「こんな組織を創りたい」という想いを具体的に考え示していくこと、

そして、その想いを実現するための戦略をミドル層が真剣に考え、欠落した部分を体系的な研修等で補うことで

力を蓄えていくことが大切であると考えています。マーケティング、組織改革、財務、会計、IT、

それにリーダーシップなど、数えたらきりがありませんが焦る必要はありません。

 今、何が必要なのか。

喫緊の課題となるものは法人によって違うはずです。王道から外れることなく日々進歩していけばいいのです。


    ↑ (医)恵正会 研修形態 『等級別研修』(HPより)

 

◎それでは、どのような組織づくりが理想なのでしょうか?


 何事も、一気に変革できれば苦労する必要はありません。組織作りには紆余曲折が付き物なので、

いかに辛抱強く実践できるかがポイントです。もちろん「こうすれば上手くいく」と言える

ゴールデンルールがあるわけではありません。

 近年、ボトムアップやフラットな組織体制が重要視される風潮にあるようですが、未熟な組織がこれを推進することは

むしろ危険です。もちろん、経営トップのカリスマ性だけに頼ると永続性を望むことはできませんが、

まずはトップの考え方や方針が正確に伝わる組織体制の構築が必要でしょう。とかく、中間層のところで情報が

歪曲され、末端職員にまできちんと伝わらないといったケースを耳にします。小規模な事業所ほど、

「現場9割・管理1割」といったプレイングマネジャーが多い傾向にありますが、こうした管理職は、

「自分で動いたほうが早い」と、プレーヤーとしての癖が抜けきらず、リーダーの視点を持ちにくい。このため、

各部門の運営が場当たり的になりやすく、ついつい自分の経験や考え方だけで動いてしまい、部門間の連携が

不十分なだけではなく、法人そのものの考え方がバラバラになってしまう状態に陥ってしまうのです。しかし、

ここで中間層が考えなければならないのは、「自らの役割がプレーヤーを活かすリーダーであること」を

強く認識した姿勢で仕事に取り組まなければならないということです。全員が「経営理念の実践者」になることが

組織作りの最終目標ですが、その前段階として中間層を徹底的に鍛えること。そして計画的に。

 盤石な組織を形成するための最大課題は何か。

それは、中間層の強化に尽きるといっても過言ではないと思います。

          ↑ 研修で講義をされてる様子


◎ネットワークミーティングに期待することは

 

 近年、各地で介護関係者が集まる勉強会が活発に開催されています。

会員200名を数えるネットワークミーティングは、県内ではこうした活動のリーダー的存在でしょう。

異なる組織に所属する人間が集まる勉強会は、情報やノウハウの獲得だけでなく、人的交流を広げることが

最大のメリットだと思います。

 新しい知見や異なる組織に所属する人間の考え方、感性に触れることは自らの視野を広げるとともに、

困ったときに相談できる相手を作るにはうってつけです。医療機関も介護事業者もある意味閉鎖的で、

それぞれが独自の風土を持っているため、発想が自組織の感覚で凝り固まっている場合が多いように思えます。

前述しましたように、中間層の役割はプレーヤーを活かすリーダーであること。つまり、客観的な視点から

自組織の課題を見つけ出し改善を図っていくには、外部との交流が不可欠なのです。

 今後さらに組織が拡大していくと思われるネットワークミーティングには、

一層活発な人的交流の場であることを期待したいものです。


     ↑ 当HPのTOPページの書は、同氏によるものです。



現状に甘んじる事無く、5年・10年先を見据えた仕事の実践と組織作りへの姿勢は、

今後の介護業界の仕事の在り方についての指南に思える。

これから介護業界を目指す志の高い若者達に、きっと支持されるだろう。


同氏の言葉には、

  『介護だから、こんなもんでいいだろう?』ではなく、

      『介護だからこそ、色々な事にチャレンジしていかなければ!』


                というメッセージが込められているように聞こえてならない。


  医療法人社団 恵正会オフィシャルサイト     http://www.keiseikai-nmn.net/